⑧ マクロ経済学の視点

 本章では、一般的なマクロ経済学の考え方と、私が提唱する「マクロ経済の現実論」との相違について考察いたします。

 両者はともに国家経済を対象としますが、その分析の視点には大きな違いがあると私は考えています。

第一 マクロ経済学の分析手法

 一般的なマクロ経済学では、国内総生産(GDP)、国民所得、雇用、物価などの経済指標を用いて、財政政策や金融政策が経済へどのような影響を及ぼすかを分析します。

 その代表的な政策が、「拡張的財政政策」「緩和的(拡張的)金融政策」と、「緊縮的財政政策」「引締め的金融政策」であります。

 景気が低迷している局面では、財政支出の拡大や金融緩和によって需要を喚起し、景気回復を図ることが考えられます。

 一方、景気が過熱し、物価上昇が強まる局面では、財政支出の抑制や金融引締めによって、経済の安定を図ることが検討されます。

 すなわち、マクロ経済学では、経済状況に応じて政策を選択し、その結果として国民所得やGDPがどのように変化するかを分析することが中心となります。

第二 二時点比較という視点

 マクロ経済学では、現在の政策と、その政策を採用しなかった場合を比較し、経済効果を分析することが一般的です。

 例えば、財政支出を拡大した場合と拡大しなかった場合、あるいは金融緩和を実施した場合と実施しなかった場合を比較し、国民所得や物価への影響を検討します。

 このような比較は、政策効果を理解する上で有効な方法です。

 しかし、私は、国家経済を理解するためには、二時点の比較だけでは十分ではないと考えています。

 国家経済は単年度で完結するものではなく、数十年、あるいは百年単位で継続する制度であります。

 したがって、国家経済には、継続的な資金循環という視点が必要となります。

第三 景気循環という上位概念

 経済政策は、常に同じ方向で実施されるものではありません。

 景気が悪い時期には積極的な財政政策が有効と考えられる場合がありますが、景気が過熱した局面では、物価の安定を図るために引締め政策が必要となることもあります。

 つまり、「拡張的財政政策が常に良い政策である」ということではありません。

 また、「緊縮的財政政策が常に悪い政策である」ということでもありません。

 重要なのは、経済循環全体の中で、その時々の政策がどのような役割を果たすかという点であります。

 私は、この意味において、「景気循環論」は個々の財政政策や金融政策よりも上位に位置する概念であると考えています。

 財政政策も金融政策も、景気循環の中で適切に運用されることによって初めて、本来の役割を果たすことができます。

第四 国債をどのように考えるか

 国債についても、マクロ経済学とマクロ経済の現実論では視点が異なります。

 一般的な分析では、新たに国債を発行し、その後一定期間を経て償還されるという前提で、経済効果が検討されることがあります。

 この場合、発行時には財政支出による景気刺激効果が生じる一方、将来の償還時には財政負担や財源確保の問題も分析対象となります。

 一方、私は、現実の国家財政を観察すると、国家は単発的な国債発行ではなく、既発債の償還と新規発行を繰り返しながら、継続的に財政運営を行っていると考えます。

 国債は一回限りの制度ではなく、国家経済という長期的な循環の中で運用される制度であります。

 したがって、本論では、国家経済は現実社会と同様に、継続的な資金循環を維持する主体として考察します。

 その結果、公的部門全体として、市場経済を支えるための実質的な資金供給が継続して行われる構造に着目します。

結論

 マクロ経済学は、経済政策の効果を分析する優れた学問であります。

 しかし、私は、国家経済を理解するためには、政策効果の分析だけでは十分ではないと考えています。

 国家は、単年度の収支だけで存在しているのではありません。

 公共財を供給し、市場経済を支え、世代を超えて経済循環を維持する主体であります。

 したがって、マクロ経済の現実論では、財政政策や金融政策を個別に評価するだけではなく、それらを包含する長期的な国家経済の循環構造を分析対象とします。

 この継続的な資金循環こそが、国家経済の本質であり、民間経済の利益活動を支える基盤であると、私は考えています。

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