㉖ 国債発行と不返済財政赤字

国家経済を考察する場合、「財政赤字」という言葉だけで議論を行うと、多くの誤解が生じます。私は、国家経済における財政赤字を大きく二つに分類して考察しております。

第一は、「国債発行による財政赤字」です。

第二は、「不返済財政赤字」です。

この二つは、同じ歳出超過であっても、その資金循環の仕組みが異なります。したがって、国家経済を正確に理解するためには、この区別が重要であります。

まず、「国債発行による財政赤字」とは、政府が国債を発行し、その資金を公共事業・社会保障・教育・防衛・研究開発等へ支出する形態であります。

この場合、国家は市場から資金を借り入れ、その資金を市場へ再び供給しております。国債は将来的な借換えや償還を前提としておりますが、現実の国家経済では、毎年新たな国債発行が継続され、償還額を上回る発行が繰り返されることが一般的です。

したがって、現実には市場へ継続的に貨幣供給が行われ、民間企業の利益活動を支える重要な役割を果たしております。

一方、「不返済財政赤字」とは、国家経済全体として歳出超過が存在しているものの、その赤字が必ずしも国債発行という形で現れない財政構造であります。

公益法人・独立行政法人・各種基金・政府関係機関等を通じた資金供給や、国家全体の資金循環の中で実質的な歳出超過が形成される場合がこれに該当します。

私は、このような広い視点から国家経済を観察することが重要であると考えております。

国家経済は、家計のように「借金を返済してゼロにすること」を目的としておりません。

目的は、市場経済が円滑に機能するよう、必要な貨幣供給を継続し、公共財を供給し、民間企業が安心して利益活動を行える経済環境を維持することであります。

ここで重要になるのが、その国の資産構造です。

国内に十分な金融資産が存在し、多くの富裕層や企業が国債を保有できる経済では、国債発行による財政運営が比較的容易になります。

日本は、家計金融資産・企業内部留保等が極めて大きく、国内で国債を消化できる能力が高い国家であります。

したがって、日本では国債発行型の財政運営が比較的機能しやすい構造となっております。

これに対し、国内に十分な金融資産が存在しない国では、国債を大量に発行しても購入者が不足します。

その結果、国外資本への依存や、他の財政運営手法を採用せざるを得ません。

ヨーロッパ諸国では、日本と比較すると国内金融資産が小さい国も多く、国家経済の資金循環は国ごとに大きく異なります。

したがって、「財政赤字」という一つの言葉だけで各国経済を比較することは適切ではありません。

その国の資産構造、金融市場、貨幣供給の仕組み、公共財の供給体制を総合的に観察する必要があります。

マクロ経済の現実論では、国家経済の本質は、「いかに財政赤字を減少させるか」ではなく、「いかに市場経済が円滑に循環し、商品・製品・サービスの質・量を向上させるか」にあります。

貨幣は目的ではありません。

貨幣は、市場経済を円滑に循環させるための手段であります。

国家経済は、その貨幣循環を維持する責任主体であり、公共財の供給を通じて民間経済の活動基盤を形成する存在であります。

したがって、財政赤字そのものを善悪で論じるのではなく、その赤字によってどれだけ国民生活が豊かになり、公共財が充実し、生産性が向上し、文明全体の発展に寄与したのかという視点から評価することが重要であります。

これこそが、私の提唱する「マクロ経済の現実論」における国家財政観であり、市民経済論とは異なる国家経済論の基本原理であります。

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