⑨ 公益法人・独立行政法人等の経済
マクロ経済の現実論では、国家経済を理解するためには、国の一般会計だけでなく、公益法人、独立行政法人、公的機関などを含めた「公的部門全体」の経済活動を考察する必要があると考えます。
これらの組織は、市場経済では十分に供給することが困難な公共財を整備し、国家経済を支える重要な役割を担っています。
したがって、公的部門の経済活動は、市民経済とは異なる視点から評価しなければなりません。
第一 公共事業と利益活動
昭和の時代には、国鉄、電電公社、たばこ専売公社など、多くの公企業が存在していました。
これらの組織は、全国規模の鉄道網、通信網、社会基盤などを整備するという大きな使命を担っていました。
その目的は利益を最大化することではありません。
国家の発展に必要な基盤を整備し、国民生活を支えることにありました。
このような事業では、巨額の初期投資が必要となり、短期間で利益を上げることは困難です。
そのため、公的主体が長期的な視点から支出を継続し、公共財を整備することには十分な合理性がありました。
第二 民営化の意義
その後、行政改革の流れの中で、多くの公企業が民営化されました。
これをもって、それまでの公的経営が誤っていたと考える必要はありません。
私は、開発段階と運営段階では、経済主体の役割が異なると考えています。
社会基盤の整備段階では、多額の投資が必要となり、採算だけで判断することは困難です。
しかし、設備が完成し、安定した運営が可能となれば、市場原理を活用しながら効率的に経営することも可能になります。
したがって、開発段階では公的主体、運営段階では民間主体という役割分担は、国家経済全体から見れば十分合理的な選択となり得ます。
重要なのは、公営か民営かという形式ではありません。
その時代、その事業、その社会状況に応じて、最も適切な主体が担うことであります。
第三 公共財の経済効果
公共事業については、「建設業だけが利益を得て、国民全体の負担が増える」という見方が示されることがあります。
しかし、マクロ経済の現実論では、その効果をより広い経済循環の中で考察します。
公共工事によって建設会社へ支払われた資金は、そこで終わるものではありません。
従業員の賃金となり、資材購入となり、設備投資となり、その資金はさらに小売業、飲食業、運輸業、教育、医療など、多くの産業へ循環していきます。
一つの公共投資は、多段階にわたる経済活動を生み出し、地域経済や雇用にも波及していきます。
さらに、その結果として完成した道路、橋梁、港湾、上下水道、防災施設などは、長期間にわたり国民全体が利用する公共財となります。
つまり、公共事業は一時的な建設活動ではなく、将来の生産活動と国民生活を支える社会資本への投資でもあります。
第四 公共財の存在意義
仮に公共財が存在しない社会を考えてみます。
道路、港湾、防災施設、公園、学校、上下水道などが十分に整備されていない社会では、人々の生活や企業活動は大きな制約を受けます。
一方で、市場経済だけによって民間企業の利益活動を維持しようとすれば、国民の消費を促進するため、現金給付など需要喚起策への依存が強まる可能性があります。
しかし、供給能力が十分に高まらないまま需要だけを増やせば、物価上昇を招くおそれがあります。
これに対し、公共財への投資は、生産能力そのものを高め、物流の効率化、防災力の向上、人材育成などを通じて、経済全体の基盤を強化します。
マクロ経済の現実論では、この点に公共財の本質的な価値があると考えます。
結論
公益法人や独立行政法人などの公的部門は、市場経済と対立する存在ではありません。
むしろ、市場経済が健全に機能するための土台を整備する重要な主体であります。
利益活動が困難であっても、社会全体に必要な公共財を継続的に供給することによって、民間企業の経済活動は支えられ、国民生活はより豊かなものとなります。
したがって、公的部門の経済活動は、単年度の損益だけで評価されるものではありません。
その事業が将来にわたり社会全体へどのような価値を生み出すかという長期的視点から評価されるべきであります。
これが、私が考える「マクロ経済の現実論」における公益法人・独立行政法人等の経済活動の基本的な位置付けであります。
