⑯ 軍事力リーダーシップから経済力リーダーシップへ
人類の歴史を振り返りますと、国家の指導力、すなわちリーダーシップは、その時代ごとに大きく変化してきました。
古代・中世においては軍事力が国家の存立を左右し、近代においては工業力と軍事力が国際社会での影響力を決定してきました。
しかし、現代は、その構造が大きく変化しつつあります。
私は、二十一世紀以降の世界は、「軍事力リーダーシップ」から「経済力リーダーシップ」へ移行する時代であると考えています。
第一 核兵器時代の到来
第二次世界大戦以降、人類は核兵器という未曾有の破壊力を持つ兵器を保有する時代に入りました。
特に冷戦期には、アメリカと旧ソ連が膨大な核戦力を保有し、相互に抑止し合う構造が形成されました。
この均衡は、「相互確証破壊(Mutual Assured Destruction)」とも呼ばれ、一方が全面的な核攻撃を行えば、相手からも壊滅的な報復を受け、双方が甚大な被害を被るという前提に立っています。
そのため、核兵器は極めて強力な軍事力である一方で、その使用には極めて高い政治的・人道的な障壁が存在し、実際には抑止力として機能してきました。
冷戦期には世界全体が極度の緊張状態に置かれ、人類文明そのものが存続の危機に直面していたと言っても過言ではありません。
第二 制限戦争の時代
核抑止が機能する現代では、国家間の全面戦争は極めて起こりにくくなっています。
一方で、地域紛争や限定的な軍事衝突は依然として発生しています。
私は、このような現代の戦争を「制限戦争」の時代と位置付けています。
制限戦争では、戦争の目的や使用される兵器、戦闘地域などが一定程度限定される傾向があります。
また、国際世論、国際法、経済制裁、同盟関係などが大きく影響するため、軍事的勝利だけで国家の目的を達成することは容易ではありません。
軍事力だけでは国家の繁栄を築くことが難しい時代になったのであります。
第三 経済力が国家の評価を決める時代
私は、これからの国家は、軍事力以上に経済力によって評価される時代になると考えています。
ここでいう経済力とは、単に国内総生産や国民所得を意味するものではありません。
前章まで述べてきたように、商品・製品・サービスの質と量、科学技術、教育、人材育成、公共財、社会制度などを含めた「絶対的経済力」であります。
豊かな経済を実現した国家は、自国民の生活を向上させるだけでなく、技術協力、経済協力、投資、文化交流などを通じて国際社会へも大きな貢献を行うことができます。
このような国家こそが、二十一世紀の国際社会における新しいリーダーシップを担うものと考えます。
第四 平和と経済発展
日本国憲法第九条は、戦争放棄を理念として掲げています。
その解釈や運用については様々な議論がありますが、少なくとも「平和を追求する」という理念は、人類社会の将来を考える上で重要な視点であると考えます。
戦争によって都市や産業を破壊することは、長年かけて築き上げた絶対的経済力を失うことにもつながります。
一方で、平和のもとでは、研究開発、教育、医療、文化、産業への投資が可能となり、国家経済は着実に発展していきます。
すなわち、平和は経済発展の前提条件であり、経済発展は平和を支える基盤でもあります。
結論
私は、人類社会は軍事力による競争から、経済力による協調へと徐々に移行していくべきであると考えています。
国家が競うべきものは、兵器の数や破壊力ではなく、どれだけ豊かな商品・製品・サービスを生み出し、人々の生活を向上させ、世界へ貢献できるかという点であります。
マクロ経済の現実論では、国家経済の究極の目的は、人類社会全体の繁栄と文明の発展にあります。
軍事力は国家の安全を守るための一つの手段でありますが、それ自体が国家の最終目的ではありません。
これからの時代に求められるリーダーシップとは、絶対的経済力を高め、知識、技術、文化、公共財を通じて世界へ貢献する力であります。
私は、このような経済力リーダーシップこそが、人類社会をより平和で豊かな文明へ導く原動力になると考えています。
