⑭ 生活水準と付加価値の高い産業
国家経済の豊かさは、単に商品を数多く生産することだけで決まるものではありません。
真に重要なのは、世界市場において高い付加価値を持つ商品・製品・サービスを継続的に生み出せるかどうかであります。
私は、国家の生活水準は、その国が有する付加価値創造能力によって決まると考えています。
第一 国際競争と産業構造
世界経済では、技術は時間とともに各国へ普及します。
当初は高度な技術であったものも、生産技術が成熟し標準化されると、多くの国が製造できるようになります。
その結果、人件費の低い国との価格競争が激しくなり、高賃金国では利益を確保することが困難になる場合があります。
家電産業は、その代表的な事例の一つであります。
日本企業は長年にわたり世界市場をリードしてきましたが、技術の普及と国際競争の激化に伴い、生産拠点の海外移転や市場構造の変化が進みました。
これは、一つの産業が成熟したことを示す現象であり、世界経済では自然な流れであるとも言えます。
第二 生活水準を維持する条件
生活水準を維持し、さらに向上させるためには、世界中で容易に生産できる商品ではなく、高度な知識、技術、創造性を必要とする産業を育成することが重要になります。
すなわち、日本が継続的に高い生活水準を維持するためには、他国が容易に代替できない付加価値の高い産業を絶えず創出していかなければなりません。
これは、前章で述べた絶対的経済力を高めることにも直結します。
第三 自動車産業の将来
現在、日本経済を支える代表的産業の一つが自動車産業であります。
しかし、技術革新は極めて速い速度で進んでいます。
電動化、自動運転、人工知能、通信技術などの発展により、自動車産業そのものも大きく変化する可能性があります。
今後、自動車そのものを販売する産業から、「安全で快適な移動」というサービス全体を提供する産業へと発展することも考えられます。
つまり、製造業からサービス産業を融合した新しい産業構造への転換であります。
重要なのは、自動車を製造することではなく、人々に移動という価値を提供することであります。
第四 新産業と高付加価値産業は一致しない
ここで誤解してはならないことがあります。
それは、
新しい産業 ≠ 付加価値の高い産業
ということであります。
新しい産業であっても、参入企業が急速に増加すれば、価格競争が激しくなり、付加価値は低下していきます。
反対に、歴史ある産業であっても、高度な技術や専門性を維持していれば、高い付加価値を生み出し続けることができます。
したがって、国家経済にとって重要なのは、新しい産業かどうかではなく、世界市場において継続的に高い付加価値を創造できる産業かどうかであります。
第五 付加価値の源泉
付加価値の最も大きな源泉は、人間の知識と創造力であります。
基礎研究、応用研究、医学、材料科学、情報科学、生命科学、宇宙工学など、人類の知識を前進させる研究開発は、新しい産業を生み出す原動力となります。
例えば、iPS細胞、青色発光ダイオード、高機能材料、先端医療技術などは、一つの研究成果が数十年にわたり世界経済へ大きな影響を与える可能性を持っています。
このような研究開発は、一企業だけで完結するものではなく、大学、研究機関、企業、国家が長期間にわたり協力することによって実現されます。
結論
私は、国家経済が長期的に発展するためには、絶対的経済力を不断に高め続けることが最も重要であると考えています。
そのためには、成熟した産業に安住することなく、新しい知識、新しい技術、新しい価値を創造し続けなければなりません。
生活水準とは、単なる所得水準ではありません。
世界に誇る商品・製品・サービスを生み出し続ける能力こそが、国家の真の豊かさを支えるのであります。
マクロ経済の現実論では、このような付加価値創造能力の向上を、絶対的経済力の中核として位置付けます。
国家経済の未来は、貨幣の量によって決まるのではありません。
人間の知識、技術、創造力をいかに育み、それを社会全体の発展へ結び付けるかによって決まるのであります。
