⑫ 経済力評価に関する二面性

 国家経済を論じる際、「経済力が向上した」という表現がしばしば用いられます。

 しかし、私は、この言葉には二つの異なる意味が含まれていると考えています。

 この二つを明確に区別しなければ、国家経済の本質を正しく理解することはできません。

 マクロ経済の現実論では、この二つを「相対的経済力」と「絶対的経済力」と呼びます。

第一 相対的経済力

 第一は、貨幣によって表される経済力であります。

 一般に、国内総生産(GDP)、国民所得、企業売上高、所得水準など、金額で表現される経済指標は、この経済力を示しています。

 これらの指標が増加すれば、「経済が成長した」「経済力が向上した」と評価されることが多くあります。

 私は、このような貨幣的な指標によって評価される経済力を、「相対的経済力」と呼びます。

 相対的経済力は、国家経済を把握する上で重要な指標ですが、それだけで国家の豊かさを判断することはできません。

第二 絶対的経済力

 第二は、実物経済によって表される経済力であります。

 商品・製品・サービスの品質が向上し、生産量が増加し、技術が発展し、社会全体の供給能力が高まることによって形成される経済力であります。

 私は、この実物経済の豊かさを「絶対的経済力」と呼びます。

 仮に貨幣による売上高が大きく増加していなくても、技術革新が進み、より高品質な商品が生産され、より効率的な社会が形成されていれば、その国家の実質的な経済力は向上していると考えます。

 マクロ経済の現実論では、この絶対的経済力を国家経済の本質として重視します。

第三 円高ドル安の事例

 この考え方を、前章で述べた円高ドル安の例で考えてみます。

 円高になれば、日本製品は海外市場で相対的に高価となります。

 短期的には輸出競争力が低下し、貨幣的な経済指標には不利な影響が現れることがあります。

 一方で、日本企業はその厳しい競争環境に対応するため、生産性向上、品質改善、技術革新、製造コストの削減など、不断の経営努力を続けます。

 その結果、より高品質で高付加価値な商品・製品・サービスが生み出されるようになります。

 つまり、貨幣的指標では一時的な伸びが小さくても、実物経済としての競争力は向上している可能性があります。

 これが、絶対的経済力の向上であります。

 一方、円高によって輸入品が安価になれば、消費者は同じ金額でより多くの商品を購入できるようになります。

 貨幣の購買力が向上し、国民生活の豊かさにも一定の改善が期待できます。

 このように、為替変動は相対的経済力と絶対的経済力に異なる影響を及ぼすことがあります。

第四 二つの経済力の調和

 もちろん、相対的経済力と絶対的経済力は対立する概念ではありません。

 多くの場合、技術革新や生産性向上が進めば、長期的には企業収益や所得の増加にもつながります。

 また、経済活動が活発になれば、研究開発や設備投資が促進され、さらに実物経済も発展します。

 したがって、両者は相互に影響し合いながら発展する関係にあります。

 しかし、短期的には両者の動きが一致しないこともあります。

 そのため、国家経済を評価する際には、貨幣的指標だけで判断するのではなく、実物経済の変化も併せて考察することが重要であります。

結論

 私は、国家経済を評価する際には、相対的経済力だけでは十分ではないと考えています。

 真に重要なのは、その国家がどれだけ優れた商品・製品・サービスを生み出し、どれだけ高い技術力と生産能力を備えているかという点であります。

 貨幣は経済活動を支える重要な手段ですが、それ自体が経済の目的ではありません。

 経済の目的は、人々の生活を豊かにする商品・製品・サービスを創造し、その質と量を向上させることにあります。

 したがって、マクロ経済の現実論では、「相対的経済力」と「絶対的経済力」の二つを区別しつつ、長期的な国家の発展を考える上では、絶対的経済力の向上をより重視すべきであると考えています。

 これこそが、貨幣中心の経済観から実物経済中心の経済観へと視点を転換する、マクロ経済の現実論の基本的な立場であります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です