① 経済主体と経済学

 私は、「マクロ経済の現実論」を提唱するに当たり、まず経済学そのものの対象について考察する必要があると考えております。

 経済学とは何を対象とし、誰のために存在する学問なのでしょうか。

 この問いから、本論は始まります。

 一般に経済学は、「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」の二つに大別されます。

 ミクロ経済学は、家計、消費者、企業など、個々の経済主体の行動を分析する学問であります。

 消費者は限られた所得の中でどのような商品を購入するか、企業はどのように利益を上げ、生産活動を行うか、市場では価格がどのように決定されるかなどを研究対象としています。

 ここでの経済主体は、市民であります。

 したがって、ミクロ経済学で取り扱われる内容は、市民が日常生活や企業活動の中で経験する経済感覚と比較的整合しています。

 収入があり、その範囲内で支出を行い、利益や効用を最大化するという考え方は、市民経済の現実とよく一致しています。

 この意味において、ミクロ経済とミクロ経済学は、極めて近い関係にあると考えます。

 一方、マクロ経済学は、国家経済全体を対象とする学問であります。

 国内総生産(GDP)、雇用、物価、財政、金融政策、景気循環、経済成長などを分析し、一国全体の経済活動を研究します。

 対象は明らかに国家経済であります。

 しかし、私はここに一つの課題があると考えています。

 マクロ経済学の分析対象は国家であるにもかかわらず、その説明や理解の仕方には、市民経済の感覚が持ち込まれる場面が少なくありません。

 家計と同じように国家財政を考えたり、企業経営と同じ発想で国家予算を評価したりする議論が見受けられることがあります。

 もちろん、家計や企業との比較は理解を助ける面もありますが、国家には家計や企業とは異なる役割と機能があります。

 国家は利益を最大化する主体ではありません。

 国家は、公共財を供給し、市場経済を支え、国民生活の基盤を整え、経済循環を維持することを使命としています。

 そのため、国家経済を理解するためには、市民経済とは異なる視点が必要となります。

 私は、この国家固有の経済原理を体系的に考察する理論を、「マクロ経済の現実論」と名付けました。

 マクロ経済の現実論は、国家経済を担う行政機関、官僚、地方公共団体、独立行政法人、公益法人など、公的主体の役割を念頭に置きながら、国家経済をできる限り現実に即して理解しようとする試みであります。

 本論の目的は、現実の国家経済と理論との乖離をできる限り小さくし、「マクロ経済」と「マクロ経済の現実論」がより近いものとなるよう考察することにあります。

 そのため、本論では途中から、「市民経済論」と「国家経済論」という二つの概念を用います。

 市民経済論とは、個人や企業の経済活動を対象とする考え方であります。

 収入を基礎として支出を計画し、その差額として利益や所得を確保しながら、商品・製品・サービスを購入し、生活や企業活動を充実させることを目的とします。

 利益の最大化、効率的な資源配分、合理的な消費行動は、市民経済論の基本原理であります。

 一方、国家経済論とは、国家全体の経済循環を対象とする考え方であります。

 国家は家計や企業とは異なり、公共財や公共サービスを提供し、市場経済では十分に供給されにくい分野を担います。

 道路、港湾、教育、医療、防災、治安、司法、社会保障などは、その代表例であります。

 国家経済の目的は、利益を最大化することではありません。

 社会全体の経済循環を維持し、市民経済が安心して活動できる基盤を整備することにあります。

 このため、国家の財政運営は、市民経済とは異なる論理によって考察する必要があります。

 マクロ経済の現実論では、国家財政を単なる収支の均衡だけで評価するのではなく、その支出が公共財の供給や経済循環の維持にどのような役割を果たしているかという観点を重視します。

 すなわち、国家財政は、市民経済のような利益活動を目的とするものではなく、社会全体の持続的な発展を支えるための基盤形成を目的とする活動であります。

 これが、市民経済論と国家経済論を区別する最も重要な理由であります。

 さらに、私は、この国家経済論を体系化した理論を「マクロ経済の現実論」と名付け、その基礎となる普遍的な考え方を「マクロ経済の現実原理論」と位置付けています。

 現実を正しく理解するためには、まず原理を理解しなければなりません。

 そして、その原理を現実社会へ応用することによって、国家経済の本来の姿が見えてくるものと考えております。

 これが、「マクロ経済の現実論」の出発点であり、本論全体を貫く基本的な思想であります。

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