二重・三重行政と公共支出の経済効果

― 市民経済論では見えない国家経済の仕組み ―

 行政改革の議論では、しばしば「二重行政・三重行政を解消すれば、無駄な支出が削減され、経済が効率化する」という説明が行われます。

 確かに、市民経済論の視点から見ると、行政機関も一つの組織であり、重複した支出を減らすことは「経費削減」として合理的に見えます。

 しかし、国家経済論の視点から見ると、必ずしも同じ結論にはなりません。

 なぜなら、国家の支出は単なる消費ではなく、民間経済全体の所得・利益を形成する一つの要素だからです。


1 市民経済論と国家経済論の違い

 企業経営で考えると、

「支出を減らして利益を増やす」

という考え方は当然です。

 例えば、企業が年間1億円の経費削減を行えば、その分だけ利益改善につながる可能性があります。

 しかし、国家経済全体では事情が異なります。

 国家の支出は、民間企業から見ると、

  • 売上
  • 受注
  • 所得
  • 利益

の源泉になるからです。

 つまり、一つの主体では「支出削減」であっても、経済全体では「所得減少」になる可能性があります。


2 二重行政解消による数値例

 ここで、仮定の数字を使って考察します。

 大阪の事業者全体が、1年間に事業活動のため10兆円の資金を投入しているとします。

 企業が利益を得るためには、

10兆円の投入

11~12兆円の売上獲得

1~2兆円程度の利益

という経済循環が必要になります。

 つまり、大阪経済全体では、民間事業者が活動するために、それに見合った消費需要が必要になります。


 ここで、行政改革によって公共支出を2兆円削減したとします。

 市民経済論では、

「2兆円の無駄がなくなった」

と評価する可能性があります。

 しかし国家経済論では、その2兆円は同時に、

  • 公共工事の発注
  • 事業者への支払い
  • 労働者所得
  • 消費需要

として経済循環していた可能性があります。

 その結果、

当初
11~12兆円の消費

行政支出削減後
9~10兆円程度の消費

となれば、民間事業者は十分な売上を確保できなくなります。

 10兆円投資している事業者に対して、9~10兆円程度の需要しか存在しなければ、多くの事業者は利益確保が困難になります。


3 削減した2兆円を活用する場合

 ただし、行政支出削減そのものが常に悪いということではありません。

 重要なのは、削減した資金をどのように扱うかです。

 例えば、

行政支出削減 2兆円

同額を

  • 減税
  • 社会保障費
  • 民間需要喚起策

へ転換した場合、

民間消費額は維持できます。

 つまり、

行政支出2兆円削減

2兆円分の民間需要創出

であれば、大阪経済全体の需要水準は維持されます。

 問題は「削減したこと」ではなく、

「削減した資金を経済循環から消滅させてしまうこと」

なのです。


4 公共投資を増加させる場合

 逆の場合も考察します。

 大阪の事業者への資金投入額が10兆円のままで、

公共事業費を2兆円追加したとします。

 すると、

民間消費11~12兆円

公共支出追加後13~14兆円

となる可能性があります。

 この場合、供給能力が追いつかなければ、

  • 物価上昇
  • 人件費高騰
  • 資材不足

などのインフレ圧力が発生します。

 そのため、

  • 増税
  • 社会保障負担調整
  • その他の需要調整

によって過剰需要を調整することが必要になります。


 ただし、社会保障が十分でない社会であれば、単純な増税ではなく、社会保障充実によって国民生活を改善する選択肢もあります。

 国家経済では、単純に支出を減らすことではなく、

「経済全体の需要と供給を適正に調整すること」

が重要になります。


5 大阪経済再生に必要な視点

 大阪経済が長期間停滞した原因を考える場合、単純に、

「行政を小さくすれば経済が良くなる」

という考え方だけでは不十分です。

 行政は民間経済と対立する存在ではありません。

 適切な公共支出は、

  • 企業活動を支える基盤
  • 技術発展の土台
  • 国民生活の安定
  • 民間需要の形成

につながります。

 重要なのは、

無駄な支出をなくすこと

ではなく、

必要な公共財を質・量ともに充実させながら、経済循環を維持することです。


結論

― 行政改革は「削減」ではなく「経済循環」で考える ―

 市民経済論では、

「支出削減=効率化」

と考えます。

 しかし国家経済論では、

「公共支出=民間所得形成の一部」

として考察します。

 したがって、行政改革に必要なのは、

単に二重・三重行政をなくすことではありません。

 必要なのは、

  • どの公共支出が国民生活を豊かにするのか
  • どの支出が経済循環を生むのか
  • どのように需要と供給を調整するのか

を判断することです。

 大阪経済の再生には、市民経済論だけではなく、国家経済論に基づいた政策判断が必要です。

 経済とは、個々の利益計算だけではなく、国家全体の貨幣循環と生産供給能力を考察するものなのです。

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